準備は秘かに時間をかけた

私が転職を意識し始めたのは、入社から2年半ほどだった頃でした。当時、私は飲食店の店長として勤務していたのですが、丁度良く知り合いの飲食店を経営している会社の社長さんから転職を打診されたことがきっかけです。しかし、初めて話を貰った時は「まだ入社して2年程しかたっていないし、今辞めてしまっては他の社員・アルバイトがかわいそう」と言う思いが強かったので一応は断る形で返事をしました。

それから1年程が経ち、自分の勤務する飲食店もだいぶ落ち着いた状況になってきました。後輩社員も(副)店長としての力もついてきたところで、私は今後のビジョンについて考えていました。今いる会社で着々とキャリアアップ出来れば一番良いのですが、役員はしばらく動きそうにありませんし、私の直属の上司(統括マネージャー)のポジションもしばらく動く気配はありませんでした。私が勤めていた会社は、平社員・主任・副店長・店長・エリアマネージャー・統括マネージャー・役員・社長と言った役職形態でした。慣れる可能性があるのはせいぜいエリアマネージャーと言う状況で、給料アップもほとんど見込めない状況だということを加味して「転職」を真剣に考え始めました。

その際、以前に打診を貰っていた社長に相談をしに行くと、非常に良い条件を提示されました。給料は今よりも上がりますし、役職も将来性のあるものを準備してくれるということでした。また、仕事内容についても自由度が高く魅力的な待遇を考慮してもらえるということで、とうとう私は転職を決心しました。

私はそちらの社長と転職に関する話を進めながら、今いる職場を無事に退職すべく行動を開始しました。一応、退職は2か月前に予告するという社内規定だったこともあり、転職先からは実際に転職するまでに3か月ほどの猶予を貰いました。

1か月目、まず私は身の回りのものを整理し始めました。私物は持ち帰ったり処分し、業務上必要な引き継ぎ(そうと悟られないように)を行いました。荷物の整理は特に問題ありませんでしたし、疑問を持たれた時にも「整理して使いやすくする」などと返事をしていました。問題は「引き継ぎ」の点でした。それまで、部下に任せていた部分は多いのですが、金銭管理は日報作成・売上分析・販促・新人教育などは自分がメインとなって行っていました。時折、ちょっとした相談やディスカッションなどはすることがあっても基本的には自分で管理しているものでした。しかし、ここを引き継がなければ私が転職した後に部下たちが困る可能性が高いので、しっかりと引き継ぐ必要性がありました。

そこで、まずは最も近しい部下を呼び、「これからはここまでを他の社員と協力してやってみてほしい」と伝えました。急にそんな話をしたので部下は驚いていましたが、そろそろこの程度は覚えておく必要があると言い訳をして部下を納得させました。それから1か月、みっちりと時間をかけて引き継ぎをしていきました。ひとしきり引継ぎが終わった頃、私は満を持して退職の意思を会社と店のスタッフに告げました。

私が退職の意を示すと、スタッフはもちろん会社の人間からも非常に驚かれました。中には止めてくれる人もいて心苦しい感じもありましたが、「ここで折れてはいけない」と思い意思を貫きました。スタッフには比較的簡単に納得してもらうことができましたが、問題は会社でした。

所定の書式で退職願いを提出し受理をおねがいしたのですが、「急に出されても受理できない。来年、また提出してほしい。」などと言われてしまいました。その言い分はおかしいと言い争いになってしまいましたが、こちらは特に違法な事をしている訳でもなく正式な手順を踏もうとしている訳ですので強気で対応していました。会社としてはもっと私に働いていてほしいと思ってくれているようで嬉しいことではあるのですが、退職の理由を聞かれた時にそれまでの不満を爆発させてしまったので私としては「居づらい」という思いが湧いてきました。会社は「待遇改善」をエサにしてきましたが、実現する可能性が低いことは明白だったので退職を受理してもらえるようにお願いし続けました。

退職願を提出してから1週間ほど経ち、しぶしぶながらも会社は退職願を受理してくれました。会社からは「引き継ぎだけはしっかりとやって欲しい」と念を押されましたが、その点はすでに十分なほど終わらせていたので問題ありませんでした。2~3か月目は残務処理や引継ぎの確認などを行いながら過ごしました。有給休暇があったのですが、退職を理由に有給消化は出来ないということだったので使えませんでした。

3か月目、スタッフはささやかなお別れ会を開いてくれたりと後ろ髪を引かれる思いでしたが、何とか無事に退職し新しい職場で働き始めることができました。